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■速記から印刷・製本までの全工程をトータルで引き受ける日本最初の会社とのことですが、創業のきっかけは何だったのでしょうか。
代表取締役社長 加藤信也(取材当時、現会長):
創業者である岩崎が、地元・吹上町(現在は鴻巣市)の町議会事務局長を務めていたことに始まります。地方議会の会議は年4回開催されるわけですが、会議後に作成される会議録は、公式な文書として永久に保管される非常に重要なものです。高品質でなくてはなりません。
しかし、当時まだ委託という考えはなく、会議録の作成は事務局員にとって大変負担が大きい作業でした。会議録の重要性を熟知しているだけに熱心に作成を行えば、どうしてもほかの仕事に取り組む時間がなくなってしまいます。事務局の本来の仕事は、会議録作成のみならず多岐にわたります。そこで、岩崎が会議録作成の外注先があれば依頼でき、事務局が本来の仕事に没頭できて地方議会にもプラスになると考えたのが創業のきっかけです。
岩崎は自治体に勤める公務員でしたから、会社の事業を通じて地方議会に、ひいては地域に貢献することを目的としていました。民間企業に議事録作成を発注するのは、当時は容易でなかったようですが、「議会と地域に貢献したい」という熱意が伝わったということでしょうか。
■社会の変化が激しく、企業の寿命が短くなっているなかで、埼玉の本社に続き、北海道、新潟に支社を置き、東京、盛岡、黒磯、熊谷に営業所を開設するなど、順調に事業を展開されてきましたね。
加藤:当時、速記会社はありましたが、会議録の作成に速記を使うという発想はありませんでした。速記者を議会に派遣し、反訳し、印刷や製本まで一社で一貫して行う当社が始めたスタイルは、会議録の「作成期間の短縮化」と「機密保持」を実現しました。どの議会でも同じような悩みを持っていることはわかっていましたし、このスタイルをぜひほかの自治体にも取り入れてほしい、そして各自治体の発展につなげてほしい、という創業者の情熱によって普及していった。言わば、事業展開というより、この方式の普及を目指した結果、それぞれの地域の議会に支持され、支社や営業所が増えてきたといえます。
私が社長に就任後、業務効率化の観点で3つの事業所を本社に統合し、より機能的に事業運営がなされるようになりました。
「正確に、速く、美しく」の実現は、一貫して受けるスタイルだから可能となったのですね。
加藤:それだけではありません。速記者や反訳者が、会議で使用される言葉や議事録の表記などについて熟知していたからでもあります。例えば「皆さん、こんにちは」という挨拶ひとつをとっても、平仮名と漢字の組み合わせ次第で4種類の表記になりますね。当社のスタッフなら議事録にはどの表記が適切かを理解し、内容に応じて使い分けることができますから、作業が早く正確に行えるのです。また、ひとつの助詞が異なるだけで、意味が正反対になるような文章もあります。速記者や反訳者の知識を備えていることがミスの防止にもつながります。用語や用例、議会の常識などは社内でしっかり教育し、先輩から後輩へ受け継いでいます。これも創業者が議会の事務局長を務めていたことに由来しています。
■議会報の仕事も受けていますが、その分野でもスタッフが専門性を発揮しているとお聞きします。
加藤:『議会だより』ですね。議員が自主編集するケースもありますが、議会事務局の職員が執筆からレイアウトまでを作成することも少なくありません。しかし、役所内は異動がありますし、必ずしも編集作業に長けている職員が担当するわけではないですから、議会に関する知識、編集・印刷の専門知識がある私たちが、編集面についてのアドバイスを求められ、オブザーバーのような形で関わり始めたのがきっかけです。現在は、やはり地方議会に精通したスタッフが、一自治体ごとに専任担当として付き、要望があれば編集会議にも同席して「提案型」の編集サポートをおこなっています。
議会報は、議会から住民に一方的に送るだけのものではありません。議会報という媒体を活用して、議会と住民双方向のやり取りがあるのが理想的。地方議会が目指すのは、「議会の活性化」、その一面として「住民参加の議会」があると思います。ですから、私たちのスタンスは、原稿を入力し、レイアウトして印刷すれば終わり、ではありません。議会だよりが議会と住民の懸け橋となるよう、“議会の活性化という視点を持った編集サポート”を心がけています。議会に、そして地域に貢献するという意識がここにも根付いていると言えるかもしれません。
議会は議会報を通して、議会で話し合われたことや審議の経過、決定事項を伝えたい、知ってほしい。一方で、住民には議会に興味のない人も少なくないでしょう。議会の定例会が行われていても、住民はなかなか行く機会がありませんね。いかに理解しやすい、伝わりやすい誌面にするか、そして議会に興味を持ってもらうかを大切に考えた誌面づくりを心がけ、読みやすさやわかりやすさを追求し、デザインにも、見出し1本にもこだわってご提案しています。
■議会や地域への貢献という意識が仕事のモチベーションにつながっているのでしょうね。
加藤:創業者の信念を引き継ぎ、「議会や地域の発展に一層貢献したい」という思いは、いつも幹部に伝えていますし、全社員に浸透していると思います。反訳は非常に集中力と根気を必要とする仕事ですが、離職率も低く、経験と知識の豊富なベテランが力を発揮しています。これも、自分が行う仕事が微力ながら地域の貢献につながっているという、誇りを感じられる仕事であるためだと考えています。
また、社員が皆、「人」を重視し、「人対人」を大切にするという観点は持っていますね。営業部も、広く浅くお客様と関わるのではなく、じっくりおつきあいするスタイルです。競うよりも「和」を重んじる社風といえるのではないでしょうか。部署間であっても和を大切にしますし、緊張感を保ちつつ、会社全体がアットホームな雰囲気です。これも社員一人一人の仕事に対する意欲につながっていると思います。仕事の出来映えは、結局「人」の力によるものですから、よい社風であることは貴重な財産であると考えています。
■社員に基本的な心構えとして求めていることはありますか。
加藤:言葉を扱う会社ですから、正しい日本語を使えなければならないと思っています。反訳という仕事は、知らない言葉は文字に起こせません。語彙が豊かでないと仕事ができませんから、ボキャブラリーを豊かにし、知識をつけ、経験も積むよう努めています。他部門の社員が聞き取れない言葉も、反訳スタッフに確認させると聞き取れる、ということからも、反訳部門のスタッフは特に「専門職」としてのプライドを持って業務にあたっていますね。
また、編集は誌面を作っていくだけでなく、編集会議などで企画をご提案、ご説明する機会が少なくありませんから、コミュニケーション力や表現力が求められます。それが、議会で使われる堅い言葉を、理解しやすい、温かみのある言葉で地域住民に届ける誌面づくりにもつながってくるのではないでしょうか。
■今後の事業展開についてお聞かせください。
加藤:すでに議会もIT化の流れの中にあります。正確に文字を起こす、印刷物も含めて高品質なものを納品し続けるのは当然のこととして、反訳したデータをいかに活用するかを考える段階です。会議録検索システムもそうですが、情報の伝達方法も変化していますから、時代のニーズに合わせた新たなサービスの提供も考えています。
しかしそれは、会議録から新しいシステムやサービスに業務の範囲が広がったということで、目指すところはやはり議会や地域に貢献することです。私が社長に就任したのは7年前になりますが、私利私欲ではなく、地域のために奉仕するのが目的だった創業者の思いを受け継ぎ、議会や地域に役立つ活動を行っていきたいと考えています。会社名に「センター(中央・中心)」がついていますから、地域の中央に立ち、中心となって、自治体(議会)とともに地域全体の発展に寄与していく会社でありたいですね。取材年月:2013年3月